結婚せずに子どもをもうけることはできる?

日本において、婚姻せずに子をもうける(=いわゆる「婚外子」を出産する)こと自体はまったく違法ではありません。しかし、親権(民法上の「親権者」・「親権」)の仕組みから、「婚姻していない両親が法的に共同で親権を行使する」ことは、現行法ではできません。以下、現状と、将来見込まれている法改正のポイントを整理します。

1. 婚外子の法的地位と父の「認知」

  1. 母との親子関係
    日本では、母親と子どもの親子関係は「出産(分娩)しただけ」で自動的に成立します。したがって、婚外子であっても母親側の親子関係に何ら手続きを要しません。 
  2. 父との親子関係(認知)
    一方、婚姻していない男女の間に生まれた子(非嫡出子)については、父親が「認知」をしないかぎり、法的に父子関係が成立しません。認知には以下の方法があります。
    • 出生後に父が単独で認知届を提出する
    • 父母が協議して家庭裁判所に認知を求める
    • 家庭裁判所が審判で認知を命ずる(子や母の請求などによる)

  3. 認知が成立すれば、子にとって父親が戸籍上明らかになり、相続、扶養義務などが発生します。 

2. 現行法における「親権(監護権・財産管理権)」の帰属

  1. 親権(父母の法的地位)
    日本の民法では、親権者とは「未成年の子を監護・教育し、その財産を管理する権利義務」をいいます(民法第819条以下)。親権を行使できるのは、原則として「父母」です。さらに、民法818条3項には以下の規定があります。
    「父母が婚姻中は、父及び母両者が共同して親権を行う。」
    (※ただし、家庭裁判所が特別の必要があると認めるときは、いずれか一方を親権者とすることができる。)


    つまり、“婚姻中の両親”については“共同親権”が認められているものの、あくまで「婚姻中」の場合です。 
  2. 非婚(婚外)で父母が同居していても「共同親権」は認められない
    → 婚姻していない男女間の子(婚外子)については、たとえ父母が同居していても、民法818条3項の「婚姻中で共同する」という要件を満たしません。したがって、現行の民法では、母親が親権者となり、父親は認知をしても「親権者」とはならないのが基本です。父親が親権者になりたい場合には、父母間の協議・家庭裁判所の審判を経て“親権者変更”を申し立てる必要がありますが、いったん親権者は母親に一本化される(母親が単独で行使する)ことが通例です。 
  3. 「親権者変更」や「監護権分担」の運用例
    理論上は、父が認知後に家庭裁判所へ「親権者変更(父も親権者になれるよう申立て)」を行うことができます。実際に父母で話し合い、母が親権を放棄して父に一本化したり、家庭裁判所により「父母共同で監護について定める(父を監護者として部分的に認める)」ような調停・審判が下されるケースもあります。【参考:一般的な親権変更手続き】
    ただし、現行法の運用では、母が優先的に親権を保持することが大半であり、「婚外子の父母が法的に対等に親権(共同親権)を行使する」という運用実績はほとんどありません。たとえ合意があっても、民法上の規定に照らして「親権者変更(親権の取得)」を家庭裁判所に請求する必要があるため、実質的に共同親権を行使するには多くのハードルがあります。

3. 「共同親権」が可能になる見込み──民法の改正動向

  1. 改正法の概要(令和6年5月24日公布)
    離婚後の共同親権導入に向けた改正民法案が、2024年(令和6年)5月24日に公布されました。この改正では、主に以下の点が盛り込まれています。
    • 離婚後も父母の合意または家庭裁判所の判断で「共同親権」を選択できるようになる
    • 父母が婚姻関係にない場合(すなわち婚外子)でも、父が認知した子については「共同親権」を選択可能とする
    • ただし、虐待・DVなどの事情がある場合は共同親権が制限されることもある

  2. とくに、「婚外子」であっても、父母で合意すれば共同親権を取得できる制度づくりが明文化される点が重要です。 
  3. 施行時期と対象範囲
    改正民法は公布後2年以内の施行と定められており、現在の見込みでは2026年5月までに施行される予定です(令和8年5月頃)。その時点で、以下のいずれかを満たすケースで「共同親権」を選択できるようになります。
    • 離婚後の夫婦(従来から議論されていた離婚後共同親権)
    • 婚姻関係のない男女が、父が認知した婚外子

  4. したがって、たとえば婚外状態で子をもうけ、認知が成立すれば、父母双方が「子の親権を共同で行使する」ことが法的に認められるようになる見込みです。 

4. まとめ:現状とこれから

  • 現行法(2025年6月時点)では
    • 婚姻していない男女間に生まれた子(婚外子)は、母親が自動的に親権者となる。父親は認知をすれば子との法律関係は成立するものの、親権(監護権・財産管理権)は「母親(単独)」が有する。
    • したがって、「婚外子をもって、現行制度下で父母が共同で法的な親権を行使する」ことはできない。父が親権を取得したい場合は、家庭裁判所に「親権者変更」の申立を行い、審判で認められる必要がある。 
  • 改正後(2026年頃以降)の見込みでは
    • 離婚後の共同親権と同様に、婚姻していない男女間で父が認知した婚外子についても、父母の協議(合意)や家庭裁判所の審判で「共同親権」を選択できるようになる。
    • ただし、いったん親権のあり方(誰を親権者とするか)を決める際には、家庭裁判所の審査が入る場合や、子の福祉・安全を最優先にする判断も想定される。

以上を踏まえると、「結婚せずに子をもうけて、いますぐに法的に共同親権で育てる」ということは、現行法(2025年6月時点)ではできません。ただし、2026年ごろには制度が変わり、婚外であっても認知さえしていれば「父母共同の親権(共同親権)」を選択できるようになる見込みです。先に認知手続きを踏みつつ、新しい法の施行を待つことが現実的な選択肢と言えます。


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